オールドレンズ好きなら、一度は耳にしたことがあるであろう Super Takumar 55mm F1.8。僕も例外ではなく、ずっと気になっていたレンズのひとつだった。
そんな銘玉が、ある日、僕の手元にやってきた。
SNSで「オールドレンズをください」と軽い気持ちで募ったら、まさかの返答があり、その結果譲り受けることになった一本。届いたその瞬間、手にしたときのずっしりとした重量感、金属の冷たい感触に思わず心が躍った。こういう質感のレンズは、触るだけでワクワクする。現代のプラスチック主体のレンズとは違う、「モノとしての存在感」がそこにある。
ケースから取り出し、ゆっくりとピントリングを回す。滑らかに動くその感触が心地よい。マニュアルレンズ特有の、機械的な精密さと手に馴染む感覚。カチカチと小気味よく動く絞りリング。ああ、これは撮る前からすでに楽しいやつだ。
僕は迷わず、EOS R5を取り出し、M42マウントアダプターを装着してみる。最新のデジタルカメラと、半世紀以上前のレンズ。何十年も時を超えて、この二つの機材がここでひとつにつながる。こういう「新旧の融合」こそ、オールドレンズの醍醐味だと思う。
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最初の一枚:マイボーイとの瞬間
最初にシャッターを切ったのは、マイボーイの写真だった。逆光の中で彼が遊ぶ姿をファインダー越しに見つめた瞬間、このレンズの持つ柔らかい描写に息を呑んだ。彼の輪郭が光に包まれ、背景のボケがふんわりと溶ける。写真を再生すると、そこには温もりとどこか懐かしさを感じさせる仕上がりがあった。
逆光の条件下で現れるフレアとゴーストも、このレンズならではの個性だ。光が入り込むたび、映像に詩的なニュアンスが加わる。デジタルレンズではなかなか再現できない表現力が、撮るたびに心を動かしてくれる。
実家で撮る:何気ない風景の再発見
その後、撮影の場は実家に移った。ここは僕にとっても懐かしい場所であり、柔らかい自然光が降り注ぐ空間だ。
例えば、物干しに掛けられた洗濯物。逆光に透ける布の質感や、背景のボケが作り出す柔らかいグラデーションが、ただの洗濯物を芸術的な一枚へと変えてくれる。他にも、食器棚のガラス越しに見える食器たちや、窓際のキッチン――これらも一つ一つが味わい深い被写体となった。
ガラスに映り込む光や、生活感のある小物たちも、このレンズを通すとドラマチックに映る。普段は見過ごしてしまうような何気ない風景が、まるでストーリーを語り出すようだった。
さらに、柔らかい光に包まれた実家の風景を撮る中で、光の入り方次第で物の印象が変わることに気づかされる。このレンズは、ただ撮るだけでなく、「どう撮るか」を自然と考えさせてくれる。撮影の楽しさを再確認する時間でもあった。
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街中や日常の中の1シーン
外に出てみると、目に映る景色すべてが撮りたくなる。Super Takumar 55mm F1.8の描写力が、日常の何気ない風景を特別な一枚に変えてくれるからだ。
その日はあいにくの曇り空だった。けれど、曇りの日ならではのやわらかい光が、被写体を優しく包み込む。車内からふと外を眺めると、窓には雨粒がいくつも並んでいた。レンズを向けてシャッターを切ると、雨粒一つひとつが背景のボケに溶け込み、曇り空の下でもどこか温かみを感じさせる写真に仕上がった。
車内ではマイボーイを撮影した。寄れるこのレンズのおかげで、子どもの小さな手や表情にピントを合わせるのも容易だ。レンズ越しに見える彼の横顔は、光の加減でやわらかく映り、曇り空を忘れさせるような暖かい印象を与えてくれる。
車から見えたオートバックスの看板。赤い文字が曇り空に映え、何気ない看板のデザインが、レンズを通すとポップなアートのように映る。曇りの日でも色の深みが損なわれないどころか、曇天のやわらかい光が全体を優しくまとめ上げている。
このレンズで撮ることの意味
Super Takumar 55mm F1.8は、ただのレンズではない。撮るたびに、写真そのものの楽しさを思い出させてくれる存在だ。
このレンズの柔らかい描写やフレアの美しさは、被写体を特別なものに変える力を持っている。それは子どもの笑顔であったり、部屋の隅にある生活感であったり、日常に転がる何気ない瞬間だ。
そして、このレンズを通して見る風景には、どこか「時間の重なり」が感じられる。撮影という行為そのものを、ただの記録から「何かを紡ぐ」作業に変えてくれるのだ。
これからもこのレンズを持って、日常を切り取っていこうと思う。どんな場所でも、どんな瞬間でも、このレンズなら美しい物語を作り出せる。そこにはきっと、思いがけない発見が待っているだろう。
今回のレンズ Super Takumar 55mm F1.8
Super Takumar 55mm F1.8 スペック表
項目 | 詳細 |
---|---|
メーカー | アサヒペンタックス(現リコー) |
発売時期 | 1960年代〜1970年代 |
マウント | M42スクリューマウント |
焦点距離 | 55mm |
開放絞り | F1.8 |
最小絞り | F16 |
レンズ構成 | 5群6枚 |
絞り羽根枚数 | 6枚 |
最短撮影距離 | 約45cm |
フィルター径 | 49mm |
コーティング | 単層またはS-M-C(マルチコーティング) |
サイズ | 約 62mm(長さ) × 49mm(直径) |
重量 | 約 200g |