待ちに待った松本剛先生の『ロッタレイン』第1巻が、ついに手元に届いた。この作品は、小学館の漫画雑誌『IKKI』で連載が始まり、その後『ヒバナ』で再開され、2017年6月号で完結した。連載中は単行本化されず、読者としてはやきもきしていたが、ようやく3ヶ月連続での刊行が決定した。この作品は、映像化されてもおかしくないほどの魅力を持っており、アニメや映画、ドラマとして多くの人に届いてほしいと願っている。
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『ロッタレイン』第1巻
単行本の表紙には、新海誠監督の帯コメントが添えられている。「はげしくて、しずかな奇跡。松本剛のマンガをいつも待っている。」このような帯は、作品の魅力を伝えるためにつけられるのだろうが、個人的には帯がなくても十分に読んでほしい作品だと思う。新海誠監督の名前があることで、作品に対する先入観を持たれるかもしれないが、それでもこの作品の本質は変わらない。
この漫画を手に取ったら、ぜひ背表紙にも目を向けてほしい
仕事・恋人・母親…
すべてを失った一(はじめ)の前に現れたのは、
14年前 自分と母親を捨てた父と、
初めて会った血の繋がらない義妹・初穂(はつほ)。
<新しい家族>として長岡で暮らすことになるが、
少女と女性の間を行き来する
美しい初穂に心奪われ…
衝動と愛情が交差する、一夏の尊い恋の物語。
玉井一(たまいはじめ)の年齢は30歳、山口初穂(やまぐちはつほ)の年齢は13歳、すべてを失ってしまった男の前に現れた少女(女性)、そして一つ屋根の下。
物語の結末を知っているからこそ、第1巻を穏やかな気持ちで読めるが、初めて読む人は「怒り」や「悲しみ」といった感情を抱くかもしれない。
それほどまでに、読者の心を揺さぶる作品だ。
地方の陰湿さと、それでも前を向く登場人物たち
物語の舞台は、長岡という地方都市。のどかで静かな街並みの中には、見えない壁のような「閉じた空気」が流れている。他人の家庭に平気で口を出す人々。陰で囁かれる噂話。外から来た人間に向けられる無言の圧力。そんな世界が、静かに、でも確実に描かれている。
「他人の家なんだから放っておけ」と言いたくなるような場面がいくつもある。登場人物たちは、そんな理不尽な空気の中で、自分の想いを抱えながら必死に踏ん張っている。
ときに突き放すように見える他人の視線。ときに胸に突き刺さるような言葉。でもその一方で、一人ひとりの登場人物の中には、確かに「前に進みたい」という小さな光が灯っている。それが、この物語をただの「切ない恋物語」で終わらせず、読む者の心を揺さぶってくる。
特に、一と初穂。二人が向き合う感情は、言葉にすれば「恋」なのかもしれない。でもその奥には、寂しさや罪悪感、救いを求める気持ち、そしてどうしようもない衝動が絡み合っていて、決して一言では表せない深さがある。
この感情の濁流は、ページをめくるごとにじわじわと胸に染み込んでくる。彼らが何に傷つき、何を求めているのか。それを理解しようとしながら読む時間は、とても静かで、でも確実に心を動かされる。
第2巻、第3巻はそれぞれ9月、10月に刊行予定。
物語はまだ序章にすぎない。
この先にどんな選択と結末が待っているのか。
ぜひ、その目で見届けてほしい。