伊勢のまちの少し外れ、静かな通りを歩いていると、黒を基調とした、シンプルで洗練された外観の建物が見えてくる。木目のアクセントがほどよくあしらわれていて、無機質すぎず、でも気取ってもいない。そこが「Folk Folk」だ。ひっそりとしているようで、近づくにつれて人の気配が感じられる。扉を開けると、今度は一転、白を基調とした柔らかい空間が広がっている。そのコントラストが、なんとも心地よい。
いつからここに通っているのか、自分でもはっきり覚えていない。でも、もう8周年と聞いて、「そんなに経ったのか」と思わずにはいられなかった。ここで過ごした日々のひとつひとつが、ゆっくりと積み重なっていたんだと思う。
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昼下がりに集まる、いつもの顔ぶれと新しい風
イベントが始まったのは、春の光が心地よい昼下がりだった。建物の前には出店が並び、スピーカーからはリズムのよい音楽が流れる。おなじみの顔があちこちにいて、久しぶりの挨拶が交わされていた。その一方で、どこか緊張したような面持ちで辺りを見回す人や、誰かと話したいけどまだ距離を測っているような佇まいの人もいて、みんなそれぞれのペースでこの空間に馴染んでいく。
僕はカメラを持って、その場の空気を静かに切り取っていった。人の顔は写さないように、でもその人たちの存在が伝わるように。笑い声、風、コーヒーの香り。そういうものがレンズの向こう側にちゃんと映ってくれたらいいな、と思いながらシャッターを切った。
ピーターさんの歌声に、すべてが止まった気がした
午後も後半に差し掛かる頃、ふと空気が変わった。Potofのボーカル、ピーターさんがステージに立ち、ギターを構えた瞬間、ざわついていた会場が自然と静まった。
彼の歌声は、やさしくて、でも芯があって、まっすぐ届く。言葉のひとつひとつが丁寧で、音が空間にしみ込んでいくようだった。たくさんの人がその場にいたのに、不思議なくらい静かな時間だった。みんなが同じ空気を吸って、同じものを聴いて、ただそこにいた。ああ、こういう時間がこの場所の「答え」なんだなと思った。
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「変わらない場所」が、少しずつ更新されていく
Folk Folkという場所は、ただの店舗じゃない。人が集まり、会話が生まれ、何かが始まる場所だ。黒い外観がその存在感を静かに放ち、中に入るとふっと肩の力が抜ける白い空間。そのギャップすら、ここに来る理由になる。
8周年、おめでとうございます。たぶん、また来年も、あの黒い壁を見て「ただいま」と思うんだと思う。そして中に入って、「やっぱりここだな」と思うんだと思う。
これからも、変わらずに、少しずつ変わっていく場所でありますように。